金曜日, 10月 4, 2024
ホームイベントアグロデザイン・スタジオ、Preferred Networksと分子標的農薬の共同研究を行い、6ヶ月で新規な除草剤のリード化合物創出に成功

アグロデザイン・スタジオ、Preferred Networksと分子標的農薬の共同研究を行い、6ヶ月で新規な除草剤のリード化合物創出に成功

第94回日本生化学会大会で共同研究の成果を発表

農薬スタートアップの株式会社アグロデザイン・スタジオ(本社:千葉県柏市、代表取締役社長:西ヶ谷有輝、以下アグロデザイン)は、株式会社Preferred Networks(https://preferred.jp、以下PFN)との共同研究を2021年4月に開始し、両社の持つタンパク質構造解析技術、AI創薬技術、バイオアッセイ技術を組み合わせることで、研究開始から6ヶ月という短期間で新規の農薬リード化合物※1の創出に成功しました。本化合物は、農薬の作用点として知られるアセト乳酸合成酵素(Acetolactate synthase:ALS)を分子標的とした低分子化合物であり、酵素に対する阻害効果および初期植物生育阻害試験における薬効が確認できています。

アグロデザイン・スタジオ、Preferred Networksと分子標的農薬の共同研究を行い、6ヶ月で新規な除草剤のリード化合物創出に成功のサブ画像1_アブラナ科の植物であるシロイヌナズナのアセト乳酸合成酵素(青)に結合して分岐鎖アミノ酸生合成経路を阻害する農薬(黄)のイメージ※2。(知的財産保護のため、今回創出したものとは別の化合物を参考例として用いています)アブラナ科の植物であるシロイヌナズナのアセト乳酸合成酵素(青)に結合して分岐鎖アミノ酸生合成経路を阻害する農薬(黄)のイメージ※2。(知的財産保護のため、今回創出したものとは別の化合物を参考例として用いています)

近年、農薬は安全性基準の厳格化に起因する開発期間の長期化(11年以上)や開発費の増大(平均300億円以上)が課題となっており※3、より効率的な創農薬技術が求められています。

こうした背景から、安全性の課題を解決する手法として、分子標的農薬が有望視されています。分子標的農薬は、防除対象生物(雑草・害虫・植物病原菌など)が持つ酵素など特定のタンパク質分子を標的として結合することで、その酵素の働きを阻害し、結果として除草・殺虫・殺菌をする農薬です。標的分子として、対象生物のみが持つ酵素を選定することで、ヒトや動物に対する毒性リスクの低い農薬の開発が可能となります。

本共同研究では、標的分子としてアセト乳酸合成酵素に着目しました。アセト乳酸合成酵素は、ロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の生合成経路において、アセト乳酸を合成する重要な酵素です。この酵素を標的にした農薬は、低薬量で高い除草作用を示すとともに、この酵素自体が動物には存在しないため安全性の高い農薬となりえます。実際、1970年代からスルホニルウレア系除草剤をはじめ多数の剤が開発されており、除草剤の中では大きな分野を占めています。一方、抵抗性雑草の出現は深刻となっており、抵抗性雑草対策剤として近年も新剤が開発されていますが、既存薬とは異なる骨格を持つ新規化合物が望まれています。

そこで両社の共同研究として、アセト乳酸合成酵素を標的とした除草剤の新規プロジェクトを立ち上げ、4月より本格的な共同研究を開始しました。まず、PFNがAI創薬プラットフォームを用いて、市販化合物800万種に対するin silicoスクリーニング※4を、研究開始から1ヵ月未満の短期間で完了しました。同時にアグロデザインが理化学研究所の協力のもとに、40種類以上の既存薬がアセト乳酸合成酵素に結合した状態の構造(複合体結晶構造)の解析を試み※5、3種の新規複合体結晶構造を明らかにすることで、薬剤の結合に重要なアミノ酸残基を同定しました。アグロデザインは、それらの解析結果をもとに268化合物を購入し、酵素アッセイとシロイヌナズナ生育阻害試験にて有望なヒット化合物の選抜を行いました。さらに両社が協力して、薬効向上などを目的に化合物のデザインと合成(合成展開)を行うことで、薬剤の酵素阻害効果の指標である50%阻害濃度(IC50)が100 nMを切る化合物の創出に成功し、シロイヌナズナの生育阻害効果も認められました。

今回のアグロデザインとPFNの共同研究では、両社のリソースを最大限に活かした短期間での除草剤候補化合物の創出に挑戦いたしました。その結果、大規模 in silicoスクリーニング完了まで1ヶ月未満、スクリーニングのヒット化合物選抜まで4ヶ月、初回の合成展開完了まで6ヶ月という短期間で各工程を実施し、同時に酵素アッセイ・植物生育試験で薬効を確認することに成功しました。

本研究は農薬開発の初期工程にあたり、今後の工程を進めるための投資やパートナー農薬関連会社を募集することにより、実用化に向けた研究を加速させていきます。また、本研究で培った技術やノウハウは、他の農薬や医薬などの開発にも適用可能な技術であり、除草剤以外の分野にも広く応用して参ります。

なお、本共同研究の成果の一部は、現在開催中の第94回日本生化学会大会において発表いたします。
 

—–講演情報—————-
第94回日本生化学会大会(オンライン開催)
シンポジウム『酵素だョ!全員集合 -今年も酵素を見つめ直す2021-』
セッションNo:3S11m-06 (https://www2.aeplan.co.jp/jbs2021/program.html#3S11m
講演時間:2021年11月5日10:37~10:52
演題:立体構造に基づいた高効率な農薬研究開発
講演者:田中良樹(アグロデザイン・スタジオ)
オーサーおよび所属:
田中良樹1、氏原一哉2、坂井直樹3、北川英俊1、武本瑞貴2、森脇寛智1、佐藤 匡史1、
JK Stanfield1、平田邦生3、竹下浩平3、石谷隆一郎2、山本雅貴3、力丸健太郎2、西ヶ谷有輝1
1株式会社アグロデザイン・スタジオ
2株式会社Preferred Networks
3理化学研究所 放射光科学研究センター
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【※備考】

  1. リード化合物:本格的な創農薬過程に進むのに十分な性質を有することが実験で示された化合物。リード化合物の特定は創農薬の出発点で、その後に薬効や安全性を高める過程(最適化)に入ります。
  2. 図作成(分子ビューワー):CueMol(http://www.cuemol.org
  3. 参考資料:農薬工業会ウェブサイト
  4. in silicoスクリーニング:コンピューター(シリコンチップの中)で行う化合物探索。
  5. アセト乳酸合成酵素と薬剤の複合体構造の解析実験には、自動化により迅速なタンパク質結晶化・X線回折実験・データ解析処理が可能な『SPring-8リガンドスクリーニングパイプライン(理化学研究所 放射光科学研究センター)』を利用しました。

 
●株式会社アグロデザイン・スタジオについて
https://www.agrodesign.co.jp 
新規な農薬原体(有効成分の化合物)の研究開発を行うことを目的に、2018年3月に創業。防除対象生物(害虫・雑草・病原菌など)がもつ『ヒトには無いタンパク質』を薬剤標的とすることで、分子標的農薬というコンセプトの毒性リスクが低い農薬を開発中。
住所:〒277-0882 千葉県柏市柏の葉6-2-3 東京大学 柏IIキャンパス 産学官民連携棟306
代表取締役社長:西ヶ谷 有輝(にしがや ゆうき)
設立日:2018年3月30日

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