水曜日, 4月 24, 2024
ホーム調査レポートイスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲

米生産のサステナブルなビジネスモデルへの転換は実現可能か?

農業において安定して作物に水と栄養を与える精密灌水システムを扱うイスラエル発のアグリテック企業ネタフィムが、2022年5月にスタートした点滴灌水を導入した乾田での米栽培の実証実験にて、収穫を迎えました。
水と肥料の無駄を削減し、メタンガス発生を抑制するサステナブルなビシネスモデルへの転換ーーーその第一歩を踏み出しました。

ネタフィムジャパン株式会社(本社:東京都中央区日本橋中洲5-10、代表:ジブ・クレメール、以下ネタフィムジャパン)は、秋田県五城目町と長野県東御市の2拠点において、今年2022年5月に、点滴灌水を導入した乾田での米栽培の実証実験をスタートし、2022年10月に収穫を終えました。限られた資源の最大効率化を目指す同社が、点滴灌水システムでの灌漑・施肥により、水と肥料の無駄を削減し、さらに水田での米栽培における課題である「二酸化炭素の28倍(※1)の温室効果があるメタンガスの発生」を限りなくゼロに近づけ、サステナブルな米の生産へ転換するために実施したこの実験では、協力生産者とともに水田区同様の順調な生育を達成。
日本において古くから伝わる水田文化からの転換として、水に恵まれない土地の米の生産者へ、点滴灌水という選択肢を提供すべく、2022年の本実証実験により、これからの環境負荷・生産過程の課題解決の礎が築かれました。

※1 Climate Change 2014 Synthesis Report(Intergovernmental Panel on Climate Change/2014年)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/SYR_AR5_FINAL_full.pdf
 

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像1

■共同実証実験プロジェクト動画
【点滴潅水×米】点滴潅水による米の生産は可能なのか?【水田からの転換】

 

 

【結果】生育に関わる土壌トラブルはなく、食味成分結果も良質な傾向

秋田(9a)・長野(4.9a)の2地点で行われた本実証実験。
どちらの地点も水田の広がる地区での実証実験。対象区域では、田植えが終わるとすぐに水を落とし、生育期間中は点滴灌水で栽培しました。その結果、周囲の水田と同様に出穂・開花・結実は順調に推移。収穫量は長野で1割減となったものの、本実験はネタフィムジャパンにとって初めての試みであり、同社アグロノミスト・田川不二夫氏によると「灌水施肥の調整等でまだ十分改善の余地があると考えています。」とのこと。

一方、食味成分分析においては、食味劣化の原因タンパク質やアミロース含量が少なくなり(水田区に比べてタンパク質が0.2~1.2%減、アミロースが1%減)、点滴灌水によって品質が劣るということはありませんでした。

下記は、長野県東御市の実証実験対象区および点滴潅水区での収穫分の<食味性分・特性結果>です。

<食味成分・特性結果>
水分 15.4%
タンパク 5.9%
アミロース 18.5%
脂肪酸度 20
スコア 84
食味格付 S 

【点滴灌水により変化した生産過程】

実験協力農家の株式会社白倉ファーム・代表取締役 白倉卓馬氏は、点滴灌水で栽培したことで、生産過程が変化したと収穫後に述べました。

・大量の水を使わずに栽培できた
高台にある東御市八重原地区は、台形で水はけの良い地形ですが、水資源は決して潤沢ではなく、溜池の水を使い米を栽培しています。今回は、必要な分だけ点滴チューブから少しずつ圃場に与える点滴灌水により、水の消費量は60%減少。これにより、雨の降らない日が続いても、干ばつ対策に奔走することがなくなりました。

・適度な水分を圃場に保持できた
気象データと生育ステージから、圃場に必要な水分量を算出し、その分を適切なタイミングで灌水する点滴灌水。これにより常に適度に湿った土壌を保つことができ、従来の水田方式とは違う、米にとっての最適な生育環境を生み出しました。

・水管理における労働力を削減できた
水田には、バルブの開閉だけでなく、日照りや雨により圃場にダメージがないか見回り作業が付き物。制御式の点滴灌水により、常に圃場をコントロールすることで、水管理のために圃場の様子を頻繁に見にいく必要がなくなり、結果として労働力の削減に繋がりました。
実験当初より、水田で水を張ることにより抑制されていた雑草の発生が懸念されましたが、同区域の水田と同様に田植え前のタイミングで除草剤を土壌に散布することにより、稲の生育に差し支えるような雑草は生えず、無事に収穫を迎えることができました。
 

【実験の背景】点滴灌水で米を栽培することのメリットと課題

慣行農業として、日本国内において多くの米は水田により栽培されています。

日本の農地の54%(※2)を占める米および水田での栽培の課題として、二酸化炭素の約28倍の温室効果があるメタンガスが水田で発生していることが世界的に注目されています。2022年10月に農林水産省より発表された「みどりの食糧システム戦略」の中でも、メタンガス抑制への対策について言及されています。

参考▽みどりの食糧システム戦略資料(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-72.pdf
※2 令和3年耕地面積 7月15日(農林水産省/2021年)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/r3/kouti/index.html

温室効果ガス「メタンガス」とは?

世界で発生する温室効果ガスの24%(※1)は、農林業や土地利用から発生しています。

日本の農業分野においては年間5,001万トン(※3)発生し、そのうち二酸化炭素の28倍とも言われる温室効果のあるメタンガスは46%(※3)と最も比率が高く、その半分以上が稲作に由来しています。稲作以外で発生源となるのは、家畜のゲップや排泄です。
近年、社会が環境に与え続けてきた多大な負荷の蓄積と、環境破壊が危惧される中で、メタンガスも同様に環境への負荷がかかるという点で、各方面から対策を促されています。

※3 気候変動に対する農林水産省の取組(農林水産省/2020年)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/GR/attach/pdf/s_win_abs-71.pdf

なぜ水田でメタンガスが発生するのか?

土壌の上に水を張ることで、土に空気が触れることなく、保温や雑草対策という優れた効果がある水田での栽培は日本に根付いた米の栽培文化と言えます。
一方で、水田の土壌の中には、空気に触れず酸素が少ない環境で、有機物が分解する際にメタンを生成する「微生物」(メタン生成菌)が存在しています。つまり、水を張った環境を作ることで、メタンが生成されるのです。そして、稲の中にある空気の通り道「空隙(くうげき)」を伝って大気中に放出されています。

稲作でのメタンガス発生を点滴灌水が大幅に抑制する理由

点滴灌水システムでは、土壌に水を張ることなく、乾いた土壌に点滴チューブを設置して灌水を行うことで、土が常に空気に触れてメタンガスが発生することを大幅に抑制することができます。地球環境への負荷を軽減でき、さらに「水と肥料の有効活用」「労力削減」といった点滴チューブを使った精密管理農業ならではの効果も見込めます。

メタンガス抑制方法として中干し期間の長期化も推奨されていますが、点滴灌水は抜本的に栽培方法を転換することで、メタンガス抑制だけでなく慣行農業に潜む課題の解決も目指していきます。

水だけではない、肥料を無駄なく有効利用できる点滴灌水

点滴灌水は、作物に直接必要な最小限の水と液体肥料を与えることができます。そのため、一度に大量の肥料を与え、大雨で流れてしまうなどの無駄を防ぐことができます。特に、近年のゲリラ豪雨や干ばつなどの不安定な気候では、このように少しずつ精密な管理によって灌水・施肥を行い、常に土壌を健康な状態に保つことが、長期にわたる甚大な被害を受けないためにより重要な条件になっています。さらに、このような方法で施肥をすることで、社会情勢の変化により高騰している肥料を無駄なく有効に利用することができます。

なぜ日本で米に点滴灌水を導入するのか?

海に囲まれ、川が多く、水資源に恵まれているイメージのある日本ですが、近年の異常気象により、干ばつが発生したり、突然の豪雨により土壌に悪影響が及んだりと、農業には深刻な被害が及んでいます。また、潜在的な課題として農業用水路の水門の開閉や調整といった管理においては、多くの労働力が割かれています。

このような状況に対応するべく、必要な時に必要最小限の水と肥料の供給を行う点滴灌水を用いて、精密な管理を施し、節制された仕組みを導入することが有効です。
国内において、施設園芸や果樹・露地栽培分野であらゆる作物に上記のような観点から点滴灌水システムが導入されていますが、稲作分野で水稲品種の栽培に点滴灌水を導入するのはネタフィムジャパンとして初の試みとなります。

日本の農地の半分以上を占める水田だからこそ、環境負荷を削減し、農業におけるあらゆる課題を顕在化します。ネタフィムジャパンはスローガンである「GROW MORE WITH LESS(より少ない資源で、より多くの成長を)」を、日本の農業にもたらすべく、課題解決とより良い食糧生産環境の創造へ挑戦します。

 

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像2_稲刈り前の様子/水田区と変わらぬ豊かな実りに恵まれた稲刈り前の様子/水田区と変わらぬ豊かな実りに恵まれた

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像3_点滴チューブを巻き取って撤去した後、収穫を実施点滴チューブを巻き取って撤去した後、収穫を実施

<実証実験開始時の様子>

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像4_点滴チューブの他に、詰まりを防止するフィルターや施肥装置など精密灌水に必要な装置も設置点滴チューブの他に、詰まりを防止するフィルターや施肥装置など精密灌水に必要な装置も設置

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像5_田植え後、水を落として点滴灌水システムおよび点滴チューブを設置した直後の様子田植え後、水を落として点滴灌水システムおよび点滴チューブを設置した直後の様子

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像6_点滴灌水システム導入後、1ヶ月が経過/乾いた田に、点滴チューブから灌水され、成長している点滴灌水システム導入後、1ヶ月が経過/乾いた田に、点滴チューブから灌水され、成長している

<ネタフィムについて> 

イスラエル発アグリテック企業「ネタフィム」が、点滴灌水で栽培した米を収穫/実証実験を終え、環境負荷・生産過程の課題解決に意欲のサブ画像7

Netafim(ネタフィム)は、農家のための農家によって1965年イスラエルで設立されました。

砂漠の土壌で作物を栽培するという環境から点滴灌水は生まれ、現在、その技術は110か国に拡大し、世界の農業をリードしています。当社は、世界中に33の子会社と17の製造工場があり、今までに1,000万ヘクタール以上の土地を灌漑し、200万を超える生産者の方々に1,500億以上のドリッパーを生産してきました。ネタフィムは、世界最大の灌水メーカーとしてスマート農業の普及を推進し、資源不足の問題に取り組むとともに、さらなる農業の発展を目指しています。

<ネタフィムジャパン株式会社>

ネタフィムジャパン株式会社は、ネタフィムの日本支社として1996年に創業。日本農業の生産性向上を目指し、点滴潅水の普及を行ってきました。現在、点滴潅水はハウス栽培や露地栽培での利用だけでなく、太陽光利用型大型植物工場の”ハイテク温室”としてその技術を広めています。さらには、都市型緑化プログラムにも積極的に取り組み、これまでに恵比寿ガーデンプレイスや豊洲市場の屋上緑化にも実績をのこしてきました。また、東京オリンピック 2020 では国立競技場と選手村両拠点において、ネタフィムの点滴潅水システムが採用されました。

ネタフィムジャパンは、国内生産者さまへの点滴潅水システム導入を進めると同時に、持続可能な環境問題にも取り組んでいきます。

■ネタフィムジャパン公式ホームページ

   https://www.netafim.jp/
 

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