2025年7月30日(水)~8月1日(金)【場所】福井・石川
一般社団法人 石川海洋環境研究所は石川県在住の小学校5・6年生を対象に、石川県と同様にサワラやシイラの水揚げが極端に増加している福井県へ遠征をし、現地の研究機関・企業の見学を通じて、魚種の変化や食文化の継承を学ぶ「海のヒミツ探検隊!」を、2025年7月30日(水)から2泊3日で開催いたしました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる
日本財団『海と日本プロジェクト』の一環です。

イベント概要
・開催概要 福井県小浜を拠点に石川・福井の共通課題である「魚種の変化と地元での消費」について調査する2泊3日のイベント
・日程 2025年7月30日(水)~8月1日(金)
・開催場所 石川県金沢市、福井県小浜市
・参加人数 22人(石川県在住の小学校5・6年生)
福井県・若狭湾に生きる魚類を学ぶ
初日はJR金沢駅から北陸新幹線に乗り、最初の目的地である福井県海浜自然センターへ。ここは海水魚から淡水魚まで様々な魚が生息する三方五湖や若狭湾で行われている定置網漁について学ぶことができます。
職員の柘植さんが子ども達を案内したロビーの床には、若狭湾を上空から撮った写真が。
「皆さんの足元にあるように、若狭湾はでこぼこしていて岩に波がぶつかる場所、穏やかな場所など環境が様々です。山からの栄養は川で伝わっていくので、若狭湾の様に海と山が近いと栄養もたくさん届きます。だから若狭湾では昔から様々な美味しい魚が獲れ、その一部は当時の都である京都に運ばれて行きました」
福井県の小浜から京都までは、かつてサバが運ばれていたことから「鯖街道」と呼ばれるようになりました。その距離は一番短いルートでも72km。センターの中にはサバを運んだ際に使った天秤棒があり、子どもたちは順番に担いで「とても大変だった。自分なら72kmも歩けない」などその重さを体感しました。

なぜ魚種の変化が起きたのか? 福井県立大学かつみキャンパスで海の学び
続いて訪れたのは、全国初となる水産資源の増養殖に特化した学科があり、研修拠点として最先端の研究を行っている福井県立大学かつみキャンパスです。海洋生物資源学部の特命教授・富永修さんに海水温度の上昇と魚種交代について教わりました。
「世界中で海水温の上昇が観測されていますが、実は日本近海、特に日本海側の水温の上昇率は世界全体の2~3倍の大きさになります。近年では熱帯・温帯の海域に広く分布しているシイラの漁獲量が増加傾向にあり、2023年には北海道でもシイラが大量に獲れました。また反対にサバの漁獲量は減少傾向にあります」
ここで子ども達は、かつみキャンパスで進められているサバの完全養殖の研究施設を見学しました。

富永さん「養殖でも、水温の高さが課題になります。皆さんはぜひ環境の変化を映し出す『目の前の海』に関心を持ち続けて下さい。温暖化とは、海水の温度が上がることだけではありません。何が起こっているのか疑問を持つことが大切です。皆さん何か質問はありますか?」
ーー「水温が温かいところに生きる魚をここで育てたらどうなりますか?」
富永さん「実は先ほどの養殖場では南の魚も育てています!福井の名産品の材料になる魚です。温暖化について考えるとネガティブになることが多いですが、このようなポジティブな考え方も大切です」
小浜の海でシーカヤック体験
今回滞在している小浜市の阿納の海は、波が穏やかな内海です。イベント2日目は、ここでのシーカヤック体験から始まりました。阿納パトラーズクラブのインストラクター・河原正和さんに、まずは海で安全に活動するための「海のそなえ」として、ライフジャケットの重要性と装着方法を教えてもらいました。
「海に落ちた時は仰向けに大の字になって下さい。ライフジャケットを着ていたら必ず浮きます。パニックを起こしてはいけません。浮いていれば助けてもらえます」
パドルの扱い方を学んだ子どもたちは、二人一組でシーカヤックに乗り込み、いざ若狭の海へ!河原さん達スタッフが感心するほどスムーズにカヤックを操り、隠れ家的な砂浜に上陸、海水浴を楽しみました。

海の幸を中心に広がる産業 若狭塗と鯖街道
午後からは、小浜の食の歴史を学ぶことができる御食国若狭おばま食文化館へ。「御食国(みけつくに)」とは、古来、朝廷に食材を収めた国の呼び名です。
子どもたちはまず、海底の様子を意匠化した漆器「若狭塗」の箸の研ぎ出し体験をしました。熟練職人の指導の下、卵の殻とアワビの貝の上に何層も重ねられた漆を研いでいきます。中には、自分が研いだ箸に職人が少し手を加えただけで輝きが増すことに驚き、目を見張る子も。それぞれに素敵なお土産ができました。

続いて学芸員の岡颯馬さんに、小浜と鯖街道の歴史や海産物の運搬方法を教わりました。奈良や京都に都があった頃から、小浜でとれた海産物は天皇への献上品や貴族への贈り物として使われていました。もちろん生のままでは腐るため塩や発酵の力を借りた結果、海産物を加工する技術が進んでいったそうです。
「明治から水産学校の勉強として缶詰を作っていた小浜には、日本海側で一番大きい缶詰工場があります」
海の幸を生かした産業 缶詰工場を見学
その工場・福井缶詰は、御食国若狭おばま食文化館からわずか徒歩5分。工場では福井缶詰の重田洋志さんの案内で、サバ缶の製造ラインを見学。重田さんが開発したという「サバの頭と内臓を取り除く機械」や、重さが違う缶詰が自動で選別される様子に子ども達は大盛り上がり!さらに見学後には「賞味期限間近の3年ものの缶詰」と「見学当日に作ったばかりの缶詰」の食べ比べも体験しました。

「缶詰は熱と圧力をかける事で、作ったばかりでも骨まで美味しく食べることができます。今日作ったものは、身から出る汁と漬け汁が混ざってあっさり柔らか。賞味期限間近のものは、汁が身に戻ろうとするので味が良く染みています。また、缶詰の中は空気が無い状態なので、缶に穴や傷が無ければ賞味期限が切れていても食べることができます。何か質問はありますか?」
ーー「頭やしっぽはどうしていますか?」
重田さん「残念ながら今は捨てていますが、しっぽだけの商品を開発するなど常に試行錯誤をしています」
ーー「なぜ皮を残しているのですか?僕は焼き魚の時は皮が嫌いなので」
重田さん「それは考えた事が無かった。魚の油が最初につくのは皮のすぐ下なので、うまみが有るのです。塩焼きの皮も、今度試してみて下さいね」
金沢港の役割を学び、市場を見学
3日目は金沢へ。まずはリニューアルしたかなざわ総合市場でJFいしかわのおさかなマイスター高岩信弘さんが、港と市場の役割について解説しました。
「石川のお魚がなぜ美味しいと言われているか知っていますか?」
石川は雨量が多く山から海が近いため里山の豊富な栄養分を含んだ雪解け水や雨が川から海へと流れ込み、エサとなる小魚が多く育ちます。また、沿岸漁業が主流のため日帰りの漁が多く新鮮な魚が届くそうです。

その後、様々な魚を新鮮に保管するために設置された巨大な冷凍庫へ。濡れたタオルが一瞬で凍るマイナス35度の冷気に子ども達は驚いていました。
鯖をさばいて海鮮丼づくりとレシピ作り
この3日間で様々な魚を見て味わってきた子ども達。最後はサバの三枚おろしに挑戦です。フードコーディネーターの佐冨上あつ緒さんに教えて頂き、一人一尾ずつ頭を落とすところから始めました。切り身にして内臓を取り小骨を抜き、あぶったサバを他の刺身と一緒に丼に盛り付け、海鮮丼が完成!

<イベントの宿題>
今回の海鮮丼づくり体験を元に、子ども達には石川の魚介を主に使った「オリジナル海鮮丼のレシピ案」を“宿題”にしています。集まったアイディアをプロの料理人に渡して、「子ども達のアイディアから生まれた海プロ海鮮丼」を開発してもらいます。様々な魚種が増えてくる秋以降に実店舗で提供する予定です。
プログラムのまとめ 石川の海洋環境について
プログラムも最終段階に。3日間のまとめとして、石川県水産総合センターの奥野充一さんに石川で獲れる魚種の変化や海洋環境について教えて頂きました。サワラは1980年代には東シナ海に。1999年以降に日本海での漁獲量が急増したそうです。

「これまで石川ではサワラを食べる習慣が有りませんでした。でも元々獲れていた西日本ではお祝いの日に食べるお寿司など高級な料理に使われてきた美味しい魚です。皆さんも是非サワラを食べて、石川の新しい食文化を育てましょう!」
海のクイズ王
最後のプログラムは、3日間の学びを本格的な早押しクイズで振り返る「海のクイズ王」。「サバ」の書き方や教えて下さった先生の名前など、様々な問題が出題。子どもたちは初めての早押しボタンにワクワクしながら回答し、優勝者には温かい拍手が贈られました。

今回印象に残ったこと、子ども達の感想
「より魚と海のことが良くわかりました。缶詰を食べる時の気持ちも変わりそうです」
「缶詰に使わない尾や頭、内臓の使用方法を考えていることが分かって良かった」
「シーカヤックが、こんなに力を使うのか!とびっくりした。ペアで力を合わせることができてよかった」
「新しいお友達と出会えて楽しかった」
「鯖をさばいたのが面白かった。また今度挑戦したい」
「川の観察にはよく行くけど、海にも興味が出てきました」
<団体概要>
団体名称 :一般社団法人 石川海洋環境研究所
URL :https://ishikawa.uminohi.jp/
活動内容 :日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として、次世代へ海を引き継ぐため、
海を介して人と人がつながることを目的として、本事業を実施しています。

日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。