
図1 高効率バイオ炭製造装置の実験機

NEDOとヤンマーエネルギーシステム株式会社およびぎふ農業協同組合(以下、JAぎふ)は、「グリーンイノベーション基金事業/食料・農林水産業のCO₂等削減・吸収技術の開発」(以下、本事業)における第1号機となる、「高効率もみ殻バイオ炭製造装置」の実験機を岐阜県岐阜市のJAぎふ方県カントリーエレベーターに設置し「高機能バイオ炭」のベースとなるバイオ炭の製造実証を開始します。
高効率もみ殻バイオ炭製造装置の研究開発により、バイオ炭の製造コストの大幅削減が期待されます。また、製造されたバイオ炭は、全国50地区以上で実施する栽培試験など、本事業の研究開発で活用する予定です。
1.実証試験概要
実証期間:2025年4月24日(木)~2031年3月31日(火)の6年間
実証場所:JAぎふ方県カントリーエレベーター(岐阜県岐阜市安食6丁目5)
コンソーシアムメンバー:株式会社ぐるなび、片倉コープアグリ株式会社、全国農業協同組合連合会、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、ヤンマーエネルギーシステム株式会社
2.高機能バイオ炭コンソーシアムが目指す製造コスト削減と全国普及
高機能バイオ炭コンソーシアムは、2022年に本事業※1に採択されました。イネもみ殻などの農業副産物を炭化し、土壌の炭素貯留に寄与するバイオ炭※2に、土壌中の養分を肥料成分として作物に供給することや作物の健全な生育を助長するなどといった微生物機能を付与して、農作物の収量を向上させる新しいバイオ炭資材「高機能バイオ炭」の開発に取り組んでいます。
バイオ炭を広く農業者に利用してもらうための課題はコスト低減です。これに対しヤンマーエネルギーシステムは、バイオ炭の製造コストを大幅に低減するため、「高効率もみ殻バイオ炭製造装置」の開発に取り組んでいます。
「高効率もみ殻バイオ炭製造装置」で生成したバイオ炭を使い、農作物の種類や地域の気象・立地条件が異なる地域で栽培試験を行います。その結果を農作物の単収向上効果と農地炭素貯留を同時に実現する栽培技術体系としてまとめ、全国普及を目指します。さらに、農地炭素貯留効果によるカーボンクレジットの活用や当該農法により生産される農産物の環境価値を可視化し、対消費者に環境価値農産物として有利販売の実現を目指しています。
3.バイオ炭製造の課題解決に向けたJAぎふとの協業
バイオ炭の原料となるイネもみ殻は、JAのカントリーエレベーター※3などでのもみ摺り工程で大量に発生します。バイオ炭による炭素貯留効果を最大限に活かし、2050年カーボンニュートラルを実現するためには、こうしたカントリーエレベーターの敷地内(オンサイト)で高効率にバイオ炭を製造することが望ましく、全国のJAとの連携が欠かせません。
JAぎふは「地消地産」を掲げ、消費者が求める農産物の作付提案と消費者に生産者の顔が見えるシステムづくりを目指しています。これからの農業を生産者だけで守っていくことは困難であり、地域で生産者と消費者を連携させるバリューチェーンの実現が必要です。このような考えのもと、JAぎふでは、環境と調和した持続可能な農業を実践する拠点である「有機の里(岐阜県岐阜市安食)」で、三つの機能(栽培研究・実証、生産者育成・栽培指導、消費者の理解醸成)を持たせた有機農業の生産・経営モデルの確立を目指しています。
高機能バイオ炭コンソーシアムが目指すオンサイト(地域)での高効率なバイオ炭の製造・利用、農産物の環境価値の可視化と価値訴求は、JAぎふが推進している「地消地産」型の農業と目指す方向性が一致することから、JAぎふが2024年4月に新設した「みどり戦略部」とも連携し、「有機の里」に隣接した方県カントリーエレベーターにて本事業における高効率バイオ炭製造実証と有機の里でのバイオ炭の施用試験を行います。

4.今後の予定
ヤンマーエネルギーシステムでは、24時間稼働で1時間当たり100㎏のもみ殻から炭素残存率の高い30㎏のバイオ炭を製造可能な高効率なバイオ炭製造技術を確立することで、バイオ炭製造コストの低減を目指します。具体的には1トン当たりの製造コスト目標を3万円とし、従来のヤンマーエネルギーシステムの自動化と省エネ技術に加え、本事業でバイオ炭製造時の歩留りを従来比120%とすることにより、通常のバイオ炭製造技術比で約40%のコスト低減を想定しています。本実験機では、炉のピースを複数通り組み合わせることで、(1)もみ殻供給高さ、(2)二次空気供給高さ、(3)空気流量などの最適な操作変数を導き出すこととしています。
なお、本実験機はヤンマーエネルギーシステムの従来技術を適応し、化石燃料を使用せず、製造時の温室効果ガス(GHG)排出量が少ないだけでなく、イネもみ殻を燃焼利用する際に問題となる発がん性物質の結晶質シリカの生成を抑制することが可能で、環境に配慮した資源循環農業にも寄与します。
本装置で製造されたバイオ炭は、今後、全国50地区以上で実施する栽培試験といった現地実証など、本事業の研究開発で活用する予定です。
※1 本事業
事業名:「グリーンイノベーション基金事業/食料・農林水産業のCO₂等削減・吸収技術の開発/農業副産物を活用した高機能バイオ炭の製造・施用体系の確立」
事業期間:2022年度~2030年度
事業概要:https://green-innovation.nedo.go.jp/project/agriculture-forestry-fisheries-industries/
※2 バイオ炭
IPCCガイドラインにより、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」と定義された炭のことであり、土壌への炭素貯留効果が認められています。
※3 カントリーエレベーター
穀物を生産する多数の農家が共同して利用する大規模施設のことで、穀物の乾燥・貯蔵・調製・出荷作業を行います。
<注記>記載内容はリリース発表時点のものです。最新の情報とは内容が異なっている場合がありますのでご了承願います。

ヤンマーホールディングス株式会社
1912年に大阪で創業したヤンマーは、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型実用化に成功した産業機械メーカーです。「大地」「海」「都市」のフィールドで、エンジンなどのパワートレインを軸に、アグリ、建機、マリン、エネルギーシステムなどの事業をグローバルに展開。環境負荷フリー・GHGフリーの企業を目指し、顧客価値を創造するソリューションを提供しています。未来を育むヤンマーの価値観「HANASAKA」を基盤に、ブランドステートメントとして掲げる“A SUSTAINABLE FUTURE”を実現します。
詳しくは、ヤンマーのウェブサイトhttps://www.yanmar.com/jp/about/ をご覧ください。