~東北地方のタマネギを対象に、経営管理・栽培支援サービスによる効果を検証~
株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 内川淳、以下「日本総研」)、株式会社JSOL(本社: 東京都千代田区、代表取締役社長: 永井健志、以下「JSOL」)、株式会社みらい共創ファーム秋田(所在: 秋田県南秋田郡大潟村、代表: 涌井徹、以下「MKFA」)は、農業AIエージェントサービス「V-farmers®」の経営管理サービスおよび栽培支援サービスについて、タマネギを対象とした実証実験(以下「本実証」)を2025年9月から1年間、秋田県・大潟村で実施します。
本実証では、V-farmers®を活用することによる、農業法人経営者の経営管理業務の生産性向上および農作業従事者のスキル習得・作業効率向上への寄与について検証します。
■本実証の背景と目的
わが国の農業就業者の数は2023年には181万人と、1999年から119万人も少ない水準にまで急激に減少しており(注1)、食料安全保障のリスクともなっています。また、労働力不足に加え、仕事として主に自営農業に従事する「基幹的農業従事者」の2024年時点の平均年齢が69.2歳(注2)にも上ったことから、ベテラン農業者の知見・ノウハウの断絶も懸念されています。
このような状況の中、将来にわたって農業生産を安定的に維持するには、ベテラン農業者の知見・ノウハウを次世代に伝承するとともに、離農者の農地を集積して従来よりも規模を拡大した上で、少ない人数で効率的に営農することによる、「儲かる農業」を実現することが重要です。
本実証では、わが国の農業を支える若手農業者の育成、ノウハウの伝承、経営管理の効率化といった課題に対するソリューションの構築を目指し、農業AIエージェントサービス「V-farmers®」の検証を行います。本実証の対象として選定したタマネギは指定野菜(全国的に流通し、特に消費量が多く重要なものとして国が指定している野菜)である一方、国産品は夏季に端境期が生じており、その間は輸入品に頼らざるを得ない状況となっています。また、実証サイトが位置する東北地方では端境期の解消に向け、従来はあまり栽培されてこなかったタマネギの本格的な生産に取り組み始めており、スマート農業の活用による栽培経験の補完や作業・経営の効率化が期待されています。
本実証ではその一環として、AIエージェントサービスによる栽培ノウハウ補完や経営管理業務支援の効果を検証します。東北地方におけるタマネギ栽培での検証結果は、農業経験の乏しい新規就農者の支援や、気候変動適応として新たな品種の栽培を始める地域の支援にも応用可能と考えています。また、V-farmers®の対象品目として、本実証の対象であるタマネギに加え、コメなどの品目への拡大を計画しています。
■本実証の概要
1. 実証内容: 農業AIエージェントサービス「V-farmers®」プロトタイプを用いた機能検証
・経営管理支援サービスの有効性の検証
・栽培支援サービスの有効性の検証
・農業用生成AIの精度の検証
・既存のスマート農機などとの連携検討
2. 実証期間: 2025年9月25日~2026年9月30日
本実証では秋播きタマネギを主対象とし、2025年6月からの実証準備活動を含め、栽培サイクル全体での検証を行います。(想定スケジュール: 8月播種、10月定植、翌年6~7月収穫)
3. 実証サイト: MKFA(秋田県南秋田郡大潟村/経営面積65ヘクタール、実証対象面積6ヘクタール/株式会社三井住友銀行が、2016年に農業法人等と共同で秋田県大潟村に設立)
4. 対象作物: タマネギ
5. 役割: 日本総研とJSOLは、共同で農業現場のニーズ把握・分析、サービス仮説の構築を行います。また日本総研は政策動向や市場動向を把握するとともに、実証を踏まえた政策提言・情報発信を行います。JSOLは、「V-farmers®」アプリの企画・開発・運用を行います。MKFAは、「V-farmers®」プロトタイプを現場に試験導入し、フィードバックを行います。
■農業AIエージェントサービス「V-farmers®」について
V-farmers®は、栽培から経営管理まで多種多様なデータを統合し、農業現場に関連する業務を幅広く支援する農業AIエージェントです。従来はアナログで管理していた作業マニュアルや日誌、受発注書などのほか、温度や湿度、土壌のセンシングデータといった散在するデータを一元管理し、農業経営と農業生産の効率化と高度化を実現します。また、作業計画・在庫管理・病害リスク分析などの業務はサポート・代行することで大幅な効率化を図り、新規就農者でも早期に安定した収穫量を確保できるよう支援します。
(図表1)V-farmers®イメージ図

<システム構成>
・農業特化AIエージェント: 栽培・経営判断を支援するインテリジェント機能
・農業専用RAG・データベース: 各種ファーム向けナレッジ管理システム
<主要機能>
(1) 作業スケジュール調整(AIエージェント機能)
農業経営者が最も時間を費やす業務の一つである作業計画の策定や農作業従事者へのタスクの割り当て、農機具の配分などをAIによって自動化し、業務負担を大幅に軽減します。
・作付計画を過去のデータを活用して自動作成
・天候変化や病害リスクに応じた緊急防除作業によるスケジュールの変更を即座に反映
・農作業従事者と農機具の運用状況を最適化し、常に最新の作業スケジュールを維持
・経年データを比較分析し、気象条件を加味した綿密な計画立案を支援
(図表2)雨予報を踏まえた作業日程の見直し
<雨予報反映前>

<雨予報反映後>

V-farmers®プロトタイプの管理者PC画面。雨予報を踏まえた作業日程の見直しをAIエージェントに指示すると、作業の前倒しを自動的に作業タスクに反映できる。
(2) 作業マニュアル管理・栽培ナレッジ
V-farmers®は、引退するベテラン農業就業者が蓄積してきた知見や、地域独自の成功・失敗事例などを横展開することで、地域全体の農業ノウハウの向上に寄与します。また、気候変動によって農作物の適地が変動する中で、新たな作物の農法を効率的に習得することも可能にします。
・作業マニュアルをデジタル化し、AIチャット機能から即時参照できるようにすることで、作業品質の向上を図り、経験の浅い農作業従事者でも短期間で即戦力として活躍できる環境を構築
・日々の作業をもとにマニュアルを即時にアップデートし、最新ノウハウを共有
・多言語対応によって、パートタイマーなどとして働く外国人の作業を効率的にサポート
・地域に特化した栽培マニュアルなどと連携し、標準的な栽培工程から先進事例まで幅広い対策の検討を可能に
また、本実証では、内閣府「令和7年度 研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)」のうち、農林水産省が実施する施策「AI農業社会実装プロジェクト」の一環として国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構が開発を進める農業用生成AIをプロトタイプに搭載し、現地実証実験に活用します。
(図表3)多言語対応画面およびチャット画面の例

V-farmers®プロトタイプの作業者モバイル画面。左から収穫作業マニュアルの日本語版、インドネシア語版。他に英語やベトナム語など、ニーズに応じて複数言語に対応予定。
(3) 出荷管理
手書き出荷伝票の画像読み取り(OCR)による自動データ化により、出荷業務を効率化します。伝票の入金ステータスまで一貫して管理することで、出荷から売上確定までの全工程を可視化します。
なお、本システムは将来的にさまざまな企業・団体が提供する営農支援システムやスマート農機の稼働管理/監視システムなどとAPI接続し、農業経営者や農作業従事者の業務の効率化に貢献していく計画です。
(注1)農林水産省「農業の労働環境改善に向けた政策の在り方に関する検討会」第1回検討会(令和6年10月1日開催)資料3「農業分野の労働環境改善をめぐる現状と課題」
https://www.maff.go.jp/j/study/attach/pdf/work_kaizen-20.pdf
(注2)農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書 第2章 農業の持続的な発展 第3節 担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動」