山形県白鷹町の地元認可地縁団体(注1)「鮎貝自彊会」と民間企業 6 社は、山形県白鷹町の北部に 位置する鮎貝自彊会と白鷹町との分収林(注2)契約地(対象面積約 74ha)において、民間資金の導入 により分収林契約を解除し、当該地において森林所有者や出資する民間企業などが協働する造林 スキーム「フレンドシップ造林」によって資源循環型の持続可能な林業モデルの実証に着手する ため、有限責任事業組合(LLP)「鮎貝きずなの森」を組成しました。
(組合員)
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(発起人)認可地縁団体鮎貝自彊会 (山形県白鷹町、理事長 後藤 敬一郎) (以下50音順)
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株式会社アドバンテッジパートナーズ (東京都港区、 共同代表パートナー 笹沼 泰助、 リチャード フォルソム)
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岩堀建設工業株式会社 (埼玉県川越市、代表取締役社長 岩堀 和久)
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JKホールディングス株式会社 (東京都江東区、代表取締役社長 青木 慶一郎)
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新電力開発株式会社 (東京都港区、 代表取締役 坂口 愼一郎)
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那須建設株式会社 (山形県長井市、代表取締役社長 那須 暢史)
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物林株式会社 (東京都江東区、代表取締役社長 淡中 克己)
その目的は、地域に自立した林業を根付かせ得る新たな取り組みを構築していくことで、地域 とともに社会課題を解決していく足掛かりを創り出すことにあります。
(注1) 公益法人制度改革において掲げられた「地域社会の健全な発展を目的とする事業」を行う法人として、「公益を目的とする 事業を行う法人」であることを自治体の長が認可した団体
(注2) 造林者と土地所有者が異なり、両者が造林による収益を分け合う契約をした山林。全国に約 60 万 ha(人工林面積の 6%) ほど存在するとされる民間土地所有者の分収林の多くは、木材価格が当初目論見より低下したこと等から不良資産と見做され る結果となっており、木材資源が活用できていない。伐採を進めている地域でも、再造林資金の捻出が困難なことから伐採後 に再造林を放棄してしまうといった問題を抱えている
わが国の木材流通の多くは輸入材が占めています。さらに国産材に係るサプライチェーンでの 付加価値の分配は、立木価格の下落・低迷など上流である山への配分が小さくなる構造となって 久しい状況です。わが国の森林には豊富な木材資源があり、かつ着実に成長を続けていますが、 このようなことから、現在、木材を伐採した後の再造林投資への動機付けが高まらず、中長期を 見据えると次世代が木材資源に困窮するという事態が現実味を帯びてきています。
このような状況に対処していくには、植林から保育、木材流通・利用までのバリューチェーン 改革によって、国産材の安定供給能力の向上とともに、地産地消を含む市場の拡大に向け変革を 着実に推進していくことが不可欠です。一方で、それを個社だけで推進していくのは困難であり、 多様な当事者がそれぞれ得意とする領域を統合化し、かつ連携していくことが肝要と考えました。 決して容易なことではありませんが、協働事業の運営においては、変革と方向性を創り出すため、 数の論理ではなく、立場の異なる他社との共存への合意形成に向けた誠意と議論を尊重するとと もに、内部自治を重視する有限責任事業組合という枠組みを選択しました。
■目指したい未来
山村地域が担ってきた林業と森林管理活動を、都市の企業ともつながるフレンドシップ造林に よって、さらに次の観点で発展させていくことを目指します。
① 投資に対する収益性を永続して期待できる健全なる林業モデルの構築
② 山村と都市が一緒に森林を守っていく仕組みの創出
③ 次世代へとつながっていく木材資源の造成
■取り組みの動機
将来、危惧される利用可能な国産木材の減少、現在、すでに進行している林業の衰退、それに よって拍車がかかるであろう山村地域の過疎化・消滅などにより、生活に大きな恩恵をもたらす 広大な森林とその守り手である林業が抱える問題は、これからの森林管理について特定地域だけ には留まらない日本国民共通の課題となりつつあります。
そうなる前に、新たな選択肢を見いだし社会課題を解決していく足掛かりとするため、まず、 新しい林業経営モデル、すなわち地域林業を山村地域の基幹産業として再構築し、地域の発展に もつなげていけるモデルの構築に踏み出し、その成果を広く国内に伝えていきたいと考えます。 その推進のために、それぞれ異なる事業領域や地域で活躍する企業が、各組合員の利益は相互に 尊重した上で、各組合員間の短期的利害を乗り超える覚悟を持って本組合契約を締結しました。
本 LLP「鮎貝きずなの森」の各組合員については、後述のご紹介をご参照ください
■取り組みを推進していくための価値観
本 LLP が推進していくフレンドシップ造林を通して、次に掲げる方針を基礎に、森林・林業の 新たな枠組みを構築していきたいと考えます。それにより日本林業の変革を促し、ひいては健全 な地域の活性化に貢献するとともに、地域とともに社会課題を解決していく足掛かりを創出して いくことに努めます。
⚫ リスク資金の導入により LLP として「自己規律」を高めること
⚫ 長期資金を確保することで過度な補助金依存を脱するとともに、地域林業を財務的にも健全 化させることで、資源循環型の持続可能な林業の実現を通じて「地域活性化の推進能力をも 高めていく」こと
⚫ 国や本事業に関連する自治体とも連携し、相互の役割認識のもと、官に依存するだけでなく 「民間に何ができるかを考え、社会及び経済の両面で地域に良い影響を生み出す」こと
なお、この取り組みについては、地域の課題解決に向けた長期のアクションとして、株式会社 山形銀行様及び株式会社きらやか銀行様より、ご賛同とご支援をいただいています。
■地域ガバナンス委員会の組成
フレンドシップ造林を推進する協働事業体である LLP に対し、本 LLP が社会からの期待にも 応えながら、適正かつ効率的に目的を達成できるよう助言することで、本 LLP の目的達成能力を 高めることを企図し、本組合と並立的に設置される機関として「地域ガバナンス委員会」を組成 します。「地域ガバナンス委員会」の委員には、本組合員の他、本事業若しくは林業に関わりの 深い自治体等の参加、ならびに必要に応じて有識者を指名することとしています。
【ご参考】
■フレンドシップ造林、組成に至る経緯と概要 森林所有者と都市部の企業等が協働する造林スキーム「フレンドシップ造林」は、山形県白鷹町、物林、デロイト トーマツ が「林業の振興と地域の活性化の推進に向けた連携協定」において、地域と都市の共創が生み出す新たな林業経営モデルの実現 を目指して構築したものです。詳細については、下記のニュースリリースをご参照ください。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20240917-2.html
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20230411.html
■本 LLP に参画する企業の横顔 本 LLP は山林経営に関わり、あるいはそこに問題意識を持つ団体や企業で構成しています。国産材に係るサプライチェーン での付加価値分配において、山に適切な利益が還元されることがない限り、働く人や地域が元気になることはないとの共通認識 から、苦難の多い最初のひところがしを担う覚悟で集まった団体と企業です。
認可地縁団体 鮎貝自彊会 (山形県白鷹町、理事長 後藤 敬一郎)
鮎貝自彊会は鮎貝地区に住所を有する住民が加入する団体であり、保有する 2,700ha の山林は地区住民の財産として維持・ 管理されています。住民からの会費等の徴収はなく、住民個人への分配もありません。すべての収益は鮎貝地区の発展のために 教育・地域の文化の助成や、特にインフラの整備に使われています。このような取り組みを代々承継する現鮎貝自彊会は、鮎貝 地区に鮎貝城を築城し、鮎貝姓を名乗り、山林財産を領地として守り育て、鮎貝発展のために活かしてきた前史を含めると 800 年超の歴史を重ねてきたことになります。その間、山林財産を一括して守り、地区の発展に活かすとの方針のもと、営々と森林 保全活動が承継されています。このような長きにわたる地権者としての実績を裏付けに発起人としての役割を担っていきます。 なお、自彊(じきょう:自強)とは「自ら努力して、自分を強くしていくこと」との意義が込められています。
株式会社アドバンテッジパートナーズ (東京都港区、共同代表パートナー 笹沼 泰助、リチャード フォルソム)
アドバンテッジパートナーズは、1997 年に日本最初のバイアウトファンドを立ち上げた日本プライベートエクイティ市場 のパイオニアです。企業理念として、出資先企業を「地球環境問題や社会的な課題の解決に貢献しながら、永続的に成長する 企業へと発展させる」ことを目標に掲げています。全ての関係者が、本 LLP への参加を通じて経済価値を享受できるよう、 LLP の運営をサポートすると共に、このような活動を広域へ敷衍していくことへの貢献が期待されています。
岩堀建設工業株式会社 (埼玉県川越市、代表取締役社長 岩堀 和久)
岩堀建設工業は、1945 年に埼玉県川越市で創業して以来、建設業という厳しい環境の中でも、楽しく仕事をしていこうとの 動かぬ理念を貫いてきました。一方で、「環境」「社会貢献」が問われる現在においては、単に与えられた設計図、これまでの 方法や考え方通り進めれば良いいという時代は終わったと捉えています。変わらぬ精神を胸に抱きながらも新しい時代への感覚 を研ぎ澄まし、建設市場を良く知る立場から、これからの時代に相応しい価値観に立って、木材のより相応しい活用方法を見い 出し、建設市場等への情報発信を通じて「山に利益が還元することで貴重な国内資産である木材資源が循環し得る木材活用」に 努めていきたいと考えています。
JKホールディングス株式会社 (東京都江東区、代表取締役社長 青木 慶一郎)
JKホールディングスグループは「快適で豊かな住環境の創造」を企業理念とし、建材の卸売り事業を中心に、住宅に関わる 産業のサプライチェーンを網羅するネットワークを有しています。近時の環境への配慮から変化しつつある住まう人のニーズ 等、木材建材市場の状況、価値観や考え方・今後の方向性についての考えを提供していきます。また、川上から川下までカバー する幅広い事業領域を活かし、木材の積極的な利用を促していきたいと考えています。これからの重要な価値観ともなる「質」 の向上にこだわり、木材を利活用する業界全体の「環境の質」の向上も意識して、これからの木材流通のあり方を見据え、木材 建材流通市場への積極的な情報発信などに努めていきたいと考えています。
新電力開発株式会社 (東京都港区、代表取締役 坂口 愼一郎)
新電力開発は、木質バイオマス発電事業からスタートし、地球温暖化対策の基本とされる脱炭素電源の持続可能性を担保すべく、 グループとして木材事業の上流にも進出し、山林管理までを手掛けています。上流に進出する際の重要課題として、林地の集約 化、意欲と活力のある若い人材を引き付ける力、そして継続的な人材投資が求められていると考えています。これらについても、 これまでグループが取り組んできたことを含め、さらに深めていくとともに、情報発信にも努めていきたいと考えています。 なお、すでに地元山形放送ラジオを通して、定期的に森林・林業に関わる情報を発信し、地域の皆様に様々な問題への関心を 持っていただく活動に取り組んでいます。
https://www.youtube.com/@sdk8365/videos
那須建設株式会社 (山形県長井市、代表取締役社長 那須 暢史)
那須建設は、1957 年の創業以来「誠意」を大切にして総合建設業を営み、地域社会とともに歩んできました。2011 年 3 月 の東日本大震災、2013 年 7 月、2014 年 7 月と連続して白鷹町を襲った豪雨災害を教訓に、町民の安全・安心の拠点となる防災 センター機能を含む「白鷹町まちづくり複合施設」の建設では、地域で育てた木を地域で利用する「地産地消」を促進するとと もに、その利用に際して地域人材を活かす地域内サプライチェーン構築にも実績を重ねてきました。地域林業の活性化とそれら を通じた地域の経済振興は、白鷹町及びその周辺市町村が取り組むべき地域としての重要な生存戦略でもあると考えています。 このような実績と地域ネットワークを背景に、地域木材の地産地消への取り組みをさらに広げていくこと等に努めていきたいと 考えています。
物林株式会社 (東京都江東区、代表取締役社長 淡中 克己)
物林は、木材における川上から川下までをワンストップでソリューションする木材事業と、木造建築の建築支援や木造建築 と緑のまちづくりを推進する環境・景観・グリーンインフラ事業のふたつの柱があります。この「木材」と「ランドスケープ」 を軸とする事業を通して蓄積してきた木材流通市場等の状況、価値観や考え方・今後の方向性についての知見考えを提供してい きます。さらに山の木材資源を人の暮らしに永続的に活かすため、山(川上)から建築(川下)までを貫き連携する事業推進に より、持続可能な林業、地域社会の未来に向けて、山林を守り、恵みを活かし、持続可能な循環型社会を形成し、さらなる発展 を促していくために、森林・林業に変革と方向性を創り出し、情報発信等についても務めていきたいと考えています